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名古屋地方裁判所 平成11年(ワ)336号 判決

原告

安藤峰政

ほか三名

被告

駒田雅大

主文

一  被告は、原告川原香織に対し、金一八五七万八七七六円及びこれに対する平成一〇年一月三〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告安藤峰政に対し、金一八五七万八七七六円及びこれに対する平成一〇年一月三〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告安藤由香に対し、金一八五七万八七七六円及びこれに対する平成一〇年一月三〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告田副政成に対し、金一八五七万八七七六円及びこれに対する平成一〇年一月三〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

七  この判決は、第一項から第四項までに限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告川原香織に対し、金二九一四万二五三一円及びこれに対する平成一〇年一月三〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告安藤峰政に対し、金二九一四万二五三一円及びこれに対する平成一〇年一月三〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告安藤由香に対し、金二九一四万二五三一円及びこれに対する平成一〇年一月三〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告田副政成に対し、金二九一四万二五三一円及びこれに対する平成一〇年一月三〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、訴外安藤清彦(以下「清彦」という。)と被告との間の交通事故について、清彦の相続人である原告らが、被告に対し、自動車損害賠償補償法三条に基づいて損害の賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実又は括弧内の証拠により容易に認められる事実

1  本件事故の発生

平成一〇年一月三〇日午後一一時四五分ころ、愛知県豊田市元宮町一丁目二三番地先路線(国道二四八号)上において、被告運転の普通貨物自動車(以下「被告車」という。)が、横臥していた清彦に衝突した(争いがない。)。

2  清彦の死亡と原告らによる相続

訴外清彦は、平成一〇年一月三一日午前零時二〇分ころ、豊田市元城町三丁目一七番地所在の加茂病院において、本件事故による肺挫傷により死亡した(争いがない。)。原告らは、いずれも清彦の子である(甲一号証の一から六まで)。

3  被告の責任

被告は、被告車を自己のために運行の用に供するものである(争いがない。)。

二  争点

1  本件事故の態様と過失相殺

2  損害額

(原告らの主張)

(一) 逸失利益 七三二五万〇一五三円

原告は、本件事故当時四五歳(就労可能年数二二年(新ホフマン係数一四・五八〇))であるから、平成九年の年収八三七万三三六〇円を基礎とし、生活費控除割合を四〇パーセントとして算出。

(二) 慰謝料 三〇〇〇万円

(三) 葬儀費用 三三一万九九七三円

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲二号証、六号証から三九号証まで、乙二号証、三号証の一から四まで、四号証から六号証まで、七号証の一、二)及び弁論の全趣旨によれば、前記争いのない事実等に加えて、以下の事実が認められる。

本件事故の現場は、南北に走る国道二四八号線と東西に走る市道が十字に交差する交差点(以下「本件交差点」という。)内である。

国道二四八号線は、歩車道の区別のある片側一車線のアスファルト舗装された平坦な道路であり、北進方向の車道の幅員は約四・八メートル(歩道から約一・五メートル離れた地点に道路外側線が引かれている。)、南進方向の車道の幅員は約四・三メートル(歩道から約一・〇メートル離れた地点に道路外側線が引かれている。)、西側の歩道の幅員は約二・〇メートル、東側の歩道の幅員は幅員二・五メートルである。本件事故現場付近の国道二四八号線は、最高速度が五〇キロメートル毎時に制限されている。

本件事故の現場付近は、郊外型の商店などがある市街地であり、商店の看板の照明や本件交差点東北角にある街路灯などにより夜間であっても明るく、国道二四八号線の北方から本件事故現場付近の見通しは大変良い。国道二四八号線は豊田市の市街地を縦断する主要な道路であるが、本件事故当時は交通が閑散としていた。

被告車は、長さ八・四四メートル、車幅二・三〇メートル、高さ三・四七メートルの普通貨物自動車であり、乗用車に比較して運転席の位置が高く、前方の見通しが良い。被告車の前照灯の照射可能距離は、下向きにして点灯した場合約三五メートルである。

被告は、国道二四八号線を北方(広路町方面)から南方(下林町方面)に向かって走行し、本件交差点の二つ手前の信号機のある交差点で、先行する小型スポーツタイプの普通乗用自動車であるトヨタサイノス(以下「先行車」という。)に続いて信号待ちのため停車した。被告車は、右信号機の表示が青色に変わると先行車に続いて発進し、次の信号機のある交差点を対面する青色信号の表示に従って通過した後、制限速度を一五キロメートル毎時超える時速約六五キロメートルの速度で本件交差点に向かって走行していた。

被告は、本件事故現場の手前約一七六・〇メートルの地点で、本件事故現場付近で先行車が何かを避けるように一旦ハンドルを右に切り対向車線にはみ出す動きをするのを見たが、何かおかしいなと思ったのみで特にブレーキをかけることもなくそのまま進行した。

そして、本件事故現場の手前約九二・二メートルの地点に至って、被告は路上に障害物があることに気がついたが、右障害物はゴミであると考えてそのまま漫然と被告車を走行させたため、本件事故現場の手前約二六・六メートルの地点に至って初めて右障害物が人間であるらしいことに気づき、急停車の措置を講じたものの間に合わず、本件事故を発生させた。被告が十分に右障害物に注意を払っていれば、本件事故現場の手前約五六・六メートルの地点で、右障害物が人間であることに気づくことが可能であった。

他方、清彦は、本件事故当時、特段の理由がないのに、本件事故現場において、泥酔の上、頭部を北西方(吉野家方向)に向け、うずくまるように身体を縮めて横臥していた。(なお、被告は、清彦が被告車の進行してきた北方を向いていたと主張し、証拠(甲二九号証)中にはこれに沿うかのごとき部分があるが、右部分の供述(平成一〇年一月三一日付け)は、清彦の身体がいずれの道路に沿っていたのかあいまいである上、その後の実況見分(同年二月四日実施、甲二七号証)及び供述(同月五日付け、甲三一号証)で明確に変更されており、容易に信用することができない。)当時、清彦は、黒っぽいセーターを着ていた。

2  1に認定した事実によれば、被告には、本件事故当時、国道二四八号線を時速約六五キロメートルで被告車を走行させていたところ、本件事故現場の手前約九二・二メートルの地点で前方路上に障害物があるのを認めたのであるから、これに注意して十分に安全を確認しつつ被告車を走行させるべきであったのに、これを怠った過失がある。他方、前記のとおり特段の理由もなく路上に横臥していた清彦についても、公平の観点から、その損害を算定するにあたっては過失相殺の規定を類推適用して減額するのが相当であり、その割合は、1に認定した事実に照らすと、三〇パーセントとするのが相当である。

二  争点2について

1  逸失利益 七三二五万〇一五三円

証拠(甲一号証の二、四、四号証、二四号証)によれば、清彦(昭和二八年一月一〇日生)は本件事故当時四五歳であったこと、訴外清彦はトヨタ自動車株式会社に勤務し、平成九年に八三七万三三六〇円の収入があったこと、清彦は原告由香の扶養者であったこと、の各事実が認められる。

したがって、清彦の逸失利益を算出するに当たっては、右年収の八三七万三三六〇円を基本として、生活費控除を四〇パーセントとし、就労可能年数二二年に対応する新ホフマン計数(一四・五八〇)を乗ずるのが相当である。

2  慰謝料 二六〇〇万円

前記認定にかかる清彦の年齢、家族状況、本件事故の態様等本件事故に関する一切の事情を考慮すると、清彦の死亡による慰謝料としては二六〇〇万円が相当である。

3  葬儀費用 一二〇万円

証拠(甲五号証)によれば、清彦の葬儀費用として原告らが三三一万九九七三円を支出した事実が認められるが、本件事故と相当因果関係がある額としては一二〇万円が相当である。

三  以上によれば、本件事故による原告らの損害の額は合計一億〇〇四五万〇一五三円であるから、前記のとおり、その三〇パーセントを減ずると、被告が賠償すべき金額は合計七〇三一万五一〇七円となる。

四  原告は、本訴追行のための弁護士費用として合計一〇〇〇万円を請求するが、以上によれば合計四〇〇万円が本件事故による損害としては相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 榊原信次)

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